◇水嶺のフィラメント◇

[10]揺らいだ刻(とき)

 樹洞はやがて岩肌の質感に変わり、琥珀色の壁面は徐々に小さな光を散りばめ始めた。

 どうやら輝石の(たぐい)が混ざった石窟のようだ。

 オイルランプの炎に点火されたかのように、近くの粒から明滅し、行く先へ向けて波及してゆく。

 次第に明るさは増して、気付けばランプは不要なほど二人を照らしてくれていた。

「不思議な地下道だわね」

 吹き消した灯具をプラプラと振り回しつつも、メティアは歩みの速さを緩めることはなかった。

 アンのあの時の表情を思い出せば、おのずとレインが何かしらの危機に直面していることには想像が及ぶ。

 詳しい説明はされずとも、それだけはしっかりと気付いていたし、心の内をなかなか語ろうとしないアンを、問い詰める気持ちも今は生まれなかった。

「そうね。ナフィルの地下道から洞窟までも此処と同じ状態よ。……あ、ほら見て。二又に分かれるのはあそこ。この道を左へ行けば、レインと出逢った洞窟があるわ。リムナトの王宮はこっちよ」

 アンの指差した前方は、言われた通り二手に分かれていた。


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