◇水嶺のフィラメント◇
 けれど一本道の向こうからレインが現れることはなかった。

 進むにつれ渦巻いてゆく懸念に徐々に押し潰され、王宮の入口に辿り着いた頃には、心の底に残されていた僅かな希望はついに干上がってしまった。

 立ち尽くしたまま微動だにしないアンを見据え、メティアは垂らした拳をグッと握り締めた。

 口元もヘの字に引き締め、それからズイと一歩を近付く。

「じゃあ……ナニか? アンはココにいる間にレインが来なければ、レインはもう死んじまったと思うのか? 死んじまったならもうどうなってもいい、そういうことなのか!?」

「そ、んなつもりじゃ……」

 メティアの(すご)んだ声と迫った影に、アンはたじろいて一歩を引こうとした。

 が、怒りに震わされたような両肩が上がったかと思うや否や、それを一気に落としたメティアは両掌を勢い良くアンの両頬に当てて、必死な表情で続きをまくし立てた。

 パンと破裂音が一つ、洞内に小さく響き渡る。

「い、や……違う。んな縁起の悪いことなんて考えんな! レインは時が止まったのをこれ幸いと、王宮で上手く立ち回ってるに決まってる! アンが信じてやらなくてどうすんだよ!! レインは、ちゃんと、無事だって!!」


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