◇水嶺のフィラメント◇
「メティアの言う通り、レインが時の止まっている間も探りを入れていたなら、自分の部屋にはもういないと思うわ。そうね……政府のお仲間と一緒であれば、議会場の隣にある待合室で秘密の会合が行なわれている筈だけれど……時が動き出すまで其処に留まっているかしら? 最も有力なのはヒュードル侯の周辺、ということになるわね」

「一番お目に掛かりたくない奴の所ってことか」

 前方を向いたままのアンには見えないが、メティアが鼻で(わら)ったことは感じられた。

 こうなればもう野となれ山となれ、その命をレインとアンに預けたつもりなのかも知れない。

 背中に触れるメティアの気は、緊張感に纏われつつも何処か達観した趣を発していた。

 地下道はやがてもう一回り道幅を広げ、両側に木造の扉が均等に現れ始めた。

 メティアがおっかなびっくりドアノブを回してみるも、鍵が掛かっているのだろう、どの部屋も開く様子はない。

 人の気配も感じられないので、おそらくは倉庫か貯蔵庫といった(たぐい)のものと思われた。


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