◇水嶺のフィラメント◇
「いいか、アン? 振り向かれたらあたいが一気に襲い掛かる。その隙を見てアンは地下道を上がるんだ。決して振り返らずに駆け抜けなよ」

 メティアはアンを追い越して屈み込み、首だけを後ろへ反らせてそう言い聞かせた。

 その手には既に(ふところ)から取り出した金色の短剣が握られている。

 アンは瞬間何かを言いかけたが、真剣なメティアの表情にやむをえず無言で頷いた。

 こちらと違って気配を消す必要もないからなのか、足音は異様に辺りに響き渡った。

 先に広がった音が次の音を取り込むように反響し共鳴し、ついには分岐にてカツンとひときわ大きな音を立てたその時、

「其処にいるのは誰だ」

 低い声が二人へ問い掛ける前に、長い剣の尖端がメティアの鼻先を照準に捉える。

「くそっ──」

 ──万事休す──!

 衝動的に振り上げた短剣は、鋭い切っ先に弾かれてしまった。

 慌てて二人がもたげた視界には、もはや(はやて)のような剣(さば)きの白い残像しか見えなかった──。



 ◆ ◆ ◆


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