◇水嶺のフィラメント◇
「良かった……ここまで来ればもうすぐですね!」

 パニは丘の頂上で一息をつき、遠くに見える小さな灯りに瞳を輝かせた。

 「あれが北の検問所だよ」と兵士の一人に告げられたからだ。

 まもなくリーフと合流出来るかと思えば心も弾む。

 幾ら頼れる大人たちと同行しているとはいえ、風の民の「旅」から独り外れて行動するのは、まだ十三歳のパニには心細いところがあった。

「でもルーポワから直接国境越えなんて出来るのですか? ナフィルって普通リムナトに入らないと行けない筈ですよね?」

 フォルテから差し出されたバケットをかじりながら、パニは屈伸を始めた兵士の一人に問い掛けた。

 森の国ルーポワはリムナトの北、砂の国ナフィルは東に位置しているため、実際二国はリムナトから北東の地で国境を共有している。

 しかしルーポワの東部では深い森が行く手を阻み、その先はナフィルに近付くにつれ荒野となるが、途中底の見えぬほどの断崖が来る者を拒んでいる。

 あの森と谷を越えようなどという物好きは、およそ自殺志願者以外現れることはないだろう。


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