◇水嶺のフィラメント◇
それを横目にしたアンも失笑するが、やがて見え始めた両側の様子に、二人は口を開いたものの言葉を失い、思わず歩みを止めてしまった。
「此処って……地下牢、よね? イシュケル、本当にこんな所で話し合いが? だって……貴方たちも此処に囚われていたのでしょ!?」
再びカツンと一音、靴を鳴らしたイシュケルがおもむろに振り返る。
「わたくしたちが捕まっておりましたのは、西にある新しい地下牢です。現在この牢獄は使われていないそうですから。密会を設けるには好都合でありましょう」
「それはそうだけど……」
アンの納得を見届けないまま、前方に身を返してしまうイシュケル。
薄暗い地下道に今一度奏でられる靴音は、余りに鋭く規則的に響く。
「アン?」
気付けば隣を歩くメティアの袖を摘まんでいた。
何か不思議な違和感があった。
イシュケルの言う通り、此処で会合が行われていても何の問題も疑惑もない。
だがアンは僅かな胸騒ぎを覚えていた。何が彼女を不安にさせるのか?
見えない棘が心の襞をチクチクと刺し貫く。
普段は議会場の隣室で行われている筈の密事。
既にナフィルの傭兵が反乱を起こしたなどという偽りが流され、革新派の初動が見られたのだから、レインたちが発覚を怖れて活動拠点を変更してもおかしくはない。
「此処って……地下牢、よね? イシュケル、本当にこんな所で話し合いが? だって……貴方たちも此処に囚われていたのでしょ!?」
再びカツンと一音、靴を鳴らしたイシュケルがおもむろに振り返る。
「わたくしたちが捕まっておりましたのは、西にある新しい地下牢です。現在この牢獄は使われていないそうですから。密会を設けるには好都合でありましょう」
「それはそうだけど……」
アンの納得を見届けないまま、前方に身を返してしまうイシュケル。
薄暗い地下道に今一度奏でられる靴音は、余りに鋭く規則的に響く。
「アン?」
気付けば隣を歩くメティアの袖を摘まんでいた。
何か不思議な違和感があった。
イシュケルの言う通り、此処で会合が行われていても何の問題も疑惑もない。
だがアンは僅かな胸騒ぎを覚えていた。何が彼女を不安にさせるのか?
見えない棘が心の襞をチクチクと刺し貫く。
普段は議会場の隣室で行われている筈の密事。
既にナフィルの傭兵が反乱を起こしたなどという偽りが流され、革新派の初動が見られたのだから、レインたちが発覚を怖れて活動拠点を変更してもおかしくはない。