◇水嶺のフィラメント◇
「とにかく検問所を抜けて、隠しトンネルの出口まで案内してやっから。そこから先はずっと崖っぷちの一本道だ。そんな危ない斜面までリムナト兵も追いかけてきやしないだろうから、あんたたちを見送ったら、オレもリムナトへ戻ってメーたちを探してやる。それでどうだ?」

「お、お願いしますっ!!」

 今まで一言も発していない一団から甲高い声が上がり、リーフは一瞬たじろいだ。

 見ればむさ苦しい男共の真中に一人、か細い女性が陰に隠れて立ちすくみ、その両手は祈るように口元で握り締められている。

「ああ……あんたがフォルテさん?」

「はい……ですが、どうしてわたくしめの名を?」

 フォルテはその姿勢のまま首を傾げた。

「レインさまが随分と心配してたからな~王女さまと引き離しちまって大丈夫かって。だから出来るだけ気に掛けてやってくれって言われてたんだけど……こんな若輩者のオレが慰めるのもねえ?」

 と、リーフは自嘲気味に(わら)ったが、

「いっ、いいえ! リーフさん! 本当に本当に、本当にありがとうございます!! 姫さまのために単身王宮へ乗り込んでくださるだなんて……わたくしめにはもうそのお言葉だけでも救われますわっ!」

 徐々に声高になるフォルテに突進され、ガシっと両手を握られたリーフは再びたじろいでしまった。

 実のところアンよりも「メティアのことが心配で駆けつけたい」という内心は、もちろん口には出せない事実であるが。


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