◇水嶺のフィラメント◇
 この都合の良い勘違いは、涙腺に詰めておいた見えない栓を抜いてしまったらしい。

 フォルテは感激の余り泣き出した。

 そんな事態に慣れない独身の男共は、ワタワタと慌てながら手をこまねくばかり。

 それも束の間、一泣きしてスッキリしたのだろう、いざ出陣とばかりにフォルテが先頭を歩き出す。

 自分たちが早く検問を抜けられれば、その分リーフも早く王宮へ戻れることになるのだから。

「ココまでは何もなかったのか?」

 フォルテのすぐ後ろを守りながら、リーフは隣を歩くパニに質問した。

「うん……ボクたちの動きはどうも「向こう側」にバレバレみたいなんだ。ボクが王女でないと分かっているなら、確かに襲う必要もなくなるとは思うのだけど……」

「うーん、そうなったら益々王女さまとメーの動向が気になるな」

 その呟きにフォルテがクワッと目を見開いて振り返った。

 ドウドウと暴れ馬でもなだめるような仕草で、パニとリーフは両掌をフォルテに向けた。

「さて……検問所に着いた。おぉっと~ココはあんたの出番じゃない。オレの見せ場だ!」

 遠目に霞んでいた灯りがまもなくという所まで近付いた頃、リーフはフォルテの首根っこに手を伸ばし、颯爽と歩く彼女を制止した。

 いや、実際には「ひっ捕まえた」という形容がしっくりくる動作だ。

「ちょっと待っててくれ。すぐに全員通してやっから!」

 元気な声色から自信の深さは感じ取れるが──勢い良く駆けてゆく背中を見詰めながら、パニはリーフの「手癖の悪さ」を少々案じていたりもした。






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