◇水嶺のフィラメント◇
 手を振って見送るリーフもやがて自分の行き先へ振り返ったが、その刹那目の前に大きな影が降ってきた。

「──なにっ!?」

「此処から先へは通さないぜ」

 影はそう(わら)って短剣(ナイフ)を一閃、リーフは瞬間ランプを投げつけ後ろへ飛び退()いた。

 背後の不穏なざわめきに気が付いて振り向けば、列の先頭に一人、後尾である自分の後ろにも一人、同じくナイフを手にした影が立っている。

「諦めろ、お前たちに逃げ場はない──この谷底以外にはな」

 前後を取られたリーフは横へ()けようとしたが、その言葉通り右側は深い谷だ。

 仕方なく勢いをつけて左の急な斜面を駆け上がった。

 身二つ半ほど登りつめて地面を思いきり蹴り、背面飛びで影の一人へ銃を向けた。

 幸い影の構えたナイフが、投げつけたランプの反射でキラリと光る。

 それを照準に捉えた弾丸は、影の手首を見事に貫いた。

「──ぐっ!!」

 弧を描いて落ちるリーフの身体は、崖の先の何もない空間へ向かっている。

 その目の端に一瞬葉影が捉えられ、リーフは一心不乱に腕を伸ばした。

 どうにか間一髪、彼の手は枝先を握り締めて難を逃れた。


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