◇水嶺のフィラメント◇
「レっ……レイン!? レインっっ!!」

 メティアの叫びが地下道に反響した。

「あ……あっ……レ、イン……」

 呆然としたアンの唇から、やっとのことで愛しき人の名が零れ落ちた。

 その声と同時にメティアは牢の入口へ突っ走る。

 前面を覆う錆びた鉄格子の下部、同じく格子状の扉は幸い開いている。

 腰を屈めて中へ滑り込み、焦り慌てながらも何とか縄をほどいたが、レインはまるで荷を降ろされたようにメティアの(ふところ)に落ちてきた。

「レインっ──」

「どうぞ姫さまはそのままで。レインさまはあの女が介抱するでしょう」

「……イ、シュケル……?」

 四つん這いでレインに向けていた視線を、目の前まで寄ったイシュケルの(おもて)へおもむろに上げる。

 その視界の端には先程突きつけられた剣の尖端がぼんやりと映り込んだ。

「アンっ、大丈夫か!? お前、一体何をーっ!?」

 レインを抱えてしゃがみ込んだメティアが、二人の様子に気付いて牢内から噛みついた。

「女よ、安心するがいい。わたしは姫さまに危害を加えるつもりはない。もちろんこのまま姫さまがわたしの言う通り大人しくいてくれたら、だが。それよりレインさまの手当てをしたらどうだ? まだかろうじて息はあるだろう?」

「オ、マエぇぇぇっ!!」

 メティアの左手が勢い良く格子を握り締め、怒りを込めた指先がハラハラと錆びの欠片(かけら)を引き剥がした。


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