◇水嶺のフィラメント◇

[14]歪曲(わいきょく)の末路 〈N〉

 弾丸は王宮の方角から発射され、誰を(かす)めることもなく暗い地下道の奥へと消えた。

 闇を追いかけて流れゆく空気の音が、四人の耳に嫌な余韻を残す。

「イシュケル……折角俺がここまでお膳立てしてやったのに、まだそんなザマなのか?」

 やがて幾つもの足音が近付いてきて、先頭の男がぼやくように言い放った。

「ネ……ビアさま?」

「ネビア……」

 意外そうなイシュケルとレインの声に、アンとメティアは男の顔を見上げる。

 中背だがぎすぎすと骨張った痩せ方が不気味さを助長させる。

 うねった髪はオレンジがかった金色をして、まるで蔓草のように横へ広がっている。

 アンも数回会ったことのある人物だが、これほど威圧的な雰囲気であっただろうか?

 以前の彼は寡黙で人と交わらず……ただ退屈そうにしているだけの「子爵」であった。

 レインの父──前王の弟ヒュードル候の子息ネビア。

 レインよりも三歳年上のため、王位継承順位は第二位となる。

 ネビアが連れ立ってきたのは、彼自身に仕える五名の側近であった。


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