◇水嶺のフィラメント◇
「そうさ。おやじが何やら動き出したと聞いて、攪乱してやろうとイタズラついでについたウソだったんだがな。そのお陰でこの数日は本当に痛快だったぜ! レインとアン王女はこの国の貧乏人どもからやけに慕われてるだろう? そんなお姫サマをパン屋から無理矢理引きずり出したら、おやじの株は下がっちまうからなぁ。二人が自ら王宮に出向くよう、おやじとイシュケルが手をこまねいている間、俺にはたっぷり時間が出来たもんでね、遊び半分で調べてみたんだよ。そうしたら……まさかまさかの「嘘から出た実」だったなんてなぁ! ……長いこと外交に力を入れてきたレインだ。それに婚約者殿とも血を分けるスウルムとなれば、何かしらの繋がりがあってもおかしくないとは考えられた。が、確信を得るにはかなり苦労したね。こいつからは何の片鱗も見つかりゃしない……従弟殿の用心深さには随分感服させられたよ。だから俺はそいつを逆手に取ったのさ。こいつが堅強な分、周りを固める「砦」は甘いんじゃないかって、そこから切り崩してみようと一つ企ててみたんだ。案の定小さな穴でも開けてしまえば広げるのは簡単だった。ようやくたった一人、臣下を味方につけてね。いや、味方というのは間違った言い方だな……彼の大切な家族を人質に取って脅しただけだからな~! くくっ……気付かなかっただろう、従弟殿? そんなことおくびにも出さないほど、ちゃーんと教育出来てたって証拠だよ。もちろん家族を犠牲にしてでも主サマを守るのが本物だろうがね。彼も所詮「人の子」だったという訳だ!?」