◇水嶺のフィラメント◇
 自分を形勢有利と判断するネビアはいつになく饒舌(じょうぜつ)であった。

 レインがネビアを見下したことなどもちろん皆無だが、その容姿といい所作(しょさ)といい、周囲から比べられてきた対象としての恨みが言葉の端々に(うかが)われた。

 レインは明かされたカラクリに酷く驚いた様子を見せたが、臣下の裏切りには怒りを表すことはなかった。

 ただ彼の受けた脅迫の痛手に、気付いてやれなかったことを深く悔やんだ。

「お陰でなかなか面白い話が聞けたもんだ……従弟殿が風の民と内通し、仲良しこよしだと分かった時にはそりゃあ驚いたね! そいつを聞いて俺は一人の男を探し出した。そこにいる女の前に長らく「放浪する風」をまとめていた男だ。そいつはリムナトの女と一緒になりたくて、風から離脱してこの片田舎で暮らしている。そいつも女を人質にしてやったらペラペラと喋ってくれたよ! でもまさか……ふふっ、風の(おさ)がスウルムであったとはねぇ!!」

「風の……? いや、風の首長はこの女でありましょう! スウルムが風であったとしたらすぐにでも──」

「スウルムって……首長(リーダー)のことなのか……? あたいの知るリーダーの名は、かりそめだったっていうのか? それじゃあリーダーは……一体何者なんだ? アンと血の繋がりがあるって……レイン、あの人は……!?」


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