◇水嶺のフィラメント◇
「ゴチャゴチャとうるさいんだよぉ~レイン! 信じられないと言うなら、俺の言葉を文献に(したた)めてやる。さぁ、イシュケル、折角俺がここまでレインを弱らせてやったんだ。そろそろ娘の(かたき)討ちでも何でもするがいい」

「弱らせて……? レインさまを牢に張りつけたのは、ネビアさまなのですか!? わたくしはてっきりヒュードルさまの(めい)であったのかと……」

 残りの二人を両側に侍らせたネビアは、不敵な笑みで頷きながら困惑のイシュケルに歩み寄った。

「そうさ俺さ~至れり尽くせりだろ? それもお姫サマに配慮して、色男の顔には一切傷つけずにおいてやったのさ。今アン王女にレインを嫌ってもらっては困るのでね。さぁ……やれ」

「え──?」

 歩み寄られたのはイシュケルではなく──地べたに膝を突いたままのアンであった。

 イシュケルを照準に銃を構えた兵士が彼をアンから遠ざける。

 ネビアと共に近付いた二人がアンの両手首を、そして両足首を拘束し、彼女は外套(マント)()ぎ取られて硬く冷たい床に押し倒された。

「姫さま!」

「アン──っ!!」

 三人の叫びが木霊したが、アンの唇は震えて応える力もなかった。

 天井しか見えない視界が、ゆっくりとネビアのシルエットに侵食されてゆく。

 アンの身体にまたがり仁王立ちしたネビアの顔は、卑猥(ひわい)(わら)いを宿していた。

「この時をどれほど待ったか知れないねぇ……さて美しきお姫サマ、あんたなら一体どちらを選ぶ? 湖に命を捧げるか……それとも俺に、(みさお)を捧げるかだ!」






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