◇水嶺のフィラメント◇
 その頃リムナト王宮内は、異様な喧騒(けんそう)に包まれていた。

 一気に山を駆け下りて既に到着したパニとリーフも、その不思議な空間に紛れている。

 誰も彼もがあたふたと回廊を走り回っているため、まるで「森に木を隠す」が如く容易に潜伏することが出来た。

「あ……あれ! ね、リーフ。あの柱の影に立っている人たち、格好が違うけどきっとナフィルの兵隊さんだよ! アンさまを追って別れた二人の……」

 そう言いながらパニはもう二人の元へ向かっている。

 後ろから肩を叩かれた兵士の一人はギクリと一瞬固まったが、振り返って見えた少年の笑顔にホゥっと息を吐き出した。

「ああ……良かった、パニか。──じゃなくて! どうして君が此処に居るんだ!?」

「ルーポワへの国境を越えてすぐ、何者かに襲われたんです。あ、全員無事にナフィルへ向かっているのでご安心ください! それでこちらが心配になって……一体何がどうなってるんですか?」

 パニは後をついて来たリーフを二人に紹介し、柱の向こうで依然駆け回る侍従や侍女たちを目で追った。


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