◇水嶺のフィラメント◇
「ヒュードルさまを「始末」って……ま、さか……?」

 ひとまず手を止め説明に専念していたネビアだが、なかなか引き下がろうとしないイシュケルにイラつき、うるさそうに髪を掻き乱した。

「あーもうっ、おやじが王位を継いだ後じゃ、また二年も喪に服さなきゃいけないじゃないか! だ・か・ら~「今」()ってやったんだよぉー」

 首を(ひね)り、驚愕するイシュケルを見上げたネビアの顔は、露ほどにも悪びれた様子はなかった。

 嬉しそうに口角を上げた細い隙間からは、悪魔の如く鋭い牙の幻が見えた。

「そ、そのような……実のお父上ですぞ……!!」

「父上も伯父上もあったものか。おやじは裏手の古~い井戸跡に、誤って落ちてしまっただけだ。ついでに言えば伯父上も、塔のてっぺんから足を踏み外しただけ。なぁそうだろ~レイン?」

 悪魔の顔を今度はレインに向ける。

 ネビアの言う「伯父上」が自分の父親だと気付いたレインは──そしてアンとメティアも、その狂気の所業に震撼した。


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