◇水嶺のフィラメント◇
「父の死因は……事故ではなかったのか……!?」

「ああ、そうさ。あいつ、父親でもないのに俺に説教くれやがってよ。反省の弁を述べさせてくれと頼み込んで、尖塔の上に呼び出してやった」

「ネビアぁぁぁっ……!!」

 レインの叫びが煉瓦の壁を震わせた。

 アンもメティアも一瞬呼吸を止めてしまったのは、レインの口から怒号という声色など一切聞いたことがなかったからだ。

 そしてこれほどの苦しみと哀しみと……憎しみを含んだ絶叫は、二人にとって初めて耳にした音だった。

 あの日の父王の様子をレインは良く覚えている。

 散策してくると告げたその表情は、いつになく優しく嬉しそうだった。

 あれはきっと(ネビア)が自分の気持ちを理解してくれたことに喜びを感じていたからだ。

 そうして出掛けていった伯父である王に、血を分けた甥であるこのネビアは──!

 前のめりになったレインの首に剣が触れ、一筋の血がしたたる。

 気付いたアンは慌てて(かぶり)を振り、レインを止めてくれと懇願した。

 それを見つけたメティアも慌ててレインの肩を押さえつけた。


< 164 / 217 >

この作品をシェア

pagetop