◇水嶺のフィラメント◇
「イイねぇ~お前のそんな雄叫(おたけ)び、是非とも聞いてみたいと思ってたんだ。イイモノを見せてもらったから、もう一つついでに教えてやろうかぁ? スウルムの息子──パニとか言ったっけ? スウルムの居場所は聞き出せなかったが、「放浪する風」は簡単に探し出せたからな。ちょうどお姫サマの身代わりを演じてくれたことだし、そいつにも刺客を送っておいた。今頃はルーポワの谷底で息絶えてるだろう。ふふっ、アン王女の従弟ともなれば、スウルム共々ナフィルの王家に戻ってきちまう可能性があるからな。余計な雑草は早目に刈り取るのが一番なんだよ」

「んなっ! お前ぇ……今なんて言ったぁ!!」

 先程のレインのようにメティアが身を乗り出しそうになって、今度はレインが咄嗟に制した。

 けれどこの衝撃は全員の脳天を打ちのめしたに違いなかった。

 弟のように慕ってくれたパニが死んだ!?

 メティアが、レインが、アンが愕然と言葉を失う。

 そしてイシュケルも曖昧な真実の真中、もはや心も殺された気分だった。

 レインの言葉が嘘ではないのなら──(クレネ)は今も生きている!

 では何処に? どうやって?

 最も有力な説はスウルムの暮らす「動かない風」の中でだ。

 ともすればスウルムの息子は、クレネの生んだ子である可能性が高かった。

 なのにネビアは彼すら抹殺する手段を講じたという。

 実の父であるヒュードル候、二年前には伯父である前王まで、そして自分の孫かも知れない少年パニを……イシュケルは余りの口惜しさに、砕けそうなほど奥歯を噛み締めた。


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