◇水嶺のフィラメント◇
「レイン……」
小さく呟かれる愛しき名。
レインもまた同じくアンの名前を唇で辿る。
そうしてスゥと静かに深呼吸したレインは、或る一つの決意をしたようだった。
刹那その眼に力が甦った。
「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕との日々を」
──レイン?
アンにはレインの真意が分からなかった。
「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕が伝えた大切な言葉を」
「うるせぇ、レイン! こいつをひんむくまで黙ってろ!!」
──大切な……言葉?
苦しみに耐えながら哀しい笑みを浮かべるレインの面、その力強い瞳の中心をアンの双眸ははっきりと視た。
途端脳内をレインとの会話が駆け巡る。三歳から語られた全ての言葉が、文字を象り心の中で舞い踊る。
しかし楽しそうに湧き上がるカケラたちの中、ひときわ重そうに底を蠢く一節を見つけた。
ああ、そうだ──思い出した。
「どうか無事の帰国を、愛しいアン。万が一にも危険に晒された時には、「あの呪文」を囁くんだよ。覚えているね?」
「やぁっとほどけた! ふん……思った通り美しい背だ。この表がどれだけ美しいか……これはお楽しみだな」
クロスに編み込まれたコルセットの紐を全て引き抜き、ネビアは強引にその生地を端までめくった。
アンの腰の上で大袈裟に舌なめずりをしてみせる。
小さく呟かれる愛しき名。
レインもまた同じくアンの名前を唇で辿る。
そうしてスゥと静かに深呼吸したレインは、或る一つの決意をしたようだった。
刹那その眼に力が甦った。
「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕との日々を」
──レイン?
アンにはレインの真意が分からなかった。
「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕が伝えた大切な言葉を」
「うるせぇ、レイン! こいつをひんむくまで黙ってろ!!」
──大切な……言葉?
苦しみに耐えながら哀しい笑みを浮かべるレインの面、その力強い瞳の中心をアンの双眸ははっきりと視た。
途端脳内をレインとの会話が駆け巡る。三歳から語られた全ての言葉が、文字を象り心の中で舞い踊る。
しかし楽しそうに湧き上がるカケラたちの中、ひときわ重そうに底を蠢く一節を見つけた。
ああ、そうだ──思い出した。
「どうか無事の帰国を、愛しいアン。万が一にも危険に晒された時には、「あの呪文」を囁くんだよ。覚えているね?」
「やぁっとほどけた! ふん……思った通り美しい背だ。この表がどれだけ美しいか……これはお楽しみだな」
クロスに編み込まれたコルセットの紐を全て引き抜き、ネビアは強引にその生地を端までめくった。
アンの腰の上で大袈裟に舌なめずりをしてみせる。