◇水嶺のフィラメント◇
◇ 第四章 ◇

[16]血の繋がり、泉の力

 弾丸は刀身を砕きながら襲いかかる家臣の眉間を貫いた。

 同時にイシュケルが背後で構える狙撃手を、更に残った剣使いを──彼らの喉元を見事な剣(さば)きで掻き斬る。

 鮮血がほとばしり、紅い霧が宙を埋め尽くす。

 そのヴェールのこちら側で立ち上がったメティアも、ネビアを介抱する男二人を金色の短剣(ナイフ)で鮮やかに仕留めた。



 残るは(あえ)ぎながら地面をのたうち回るネビア独りのみ──。



『ニテ イ リト ティ トゥウダ』──リムナト周辺の言語で「自分の罪に(あらが)え」という意味だ。



自分(ニテ) () (リト) (ティ) 抗え(トゥウダ)

 ネビアは自分の犯した深い罪に、おのれの首を締め上げられていた。



「ネビアさま……どうか悔い改め、罪を(つぐな)うとお約束ください」

 イシュケルは依然苦しそうに()液を垂れ流すネビアの頭上に立ちはだかった。

「うあっ、んんっ! ひっ……ひやぁだっ!! あううっ……うー!」

 首を掻きむしりながらネビアは言葉にならない言葉を発したが、その内容と目つきと態度は……明らかに反発を示していた。

 血を(したた)らせたイシュケルの剣が、ゆっくりと持ち上げられ再び天を仰ぐ。

 それは閃光の如く空気を斬り裂き──ネビアの背に()き立てられた。

「地獄で我が身を(かえり)みられよ」

 剣を一振り、濁った血液を振り払うイシュケル。

 それでも遺骸に向けて一度目を伏せたのは、ネビアへの(とむら)いであったのだろうか。


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