◇水嶺のフィラメント◇
 中央には六人の手で運ばれてゆく眠りについたレインの姿、最後尾にイシュケルとパニが並んでいる。

 レインを想ってなのか誰もが口を閉ざしたままなので、聞きたいことを山ほど胸に詰め込んだパニも、何もイシュケルに問い(ただ)すことが出来ずにいた。

 イシュケルの靴音はカツカツと一定のリズムを刻んでいる。

 それが少しずつスローテンポになったとパニも気付いた頃、隣を占めていた筈の高い影は消え、振り向けばイシュケルは歩みを止めて少年を見詰めていた。

「えと……? あの……」

 パニも不思議そうに首を(かし)げながら足を止めた。

「良く……生きていてくれたな」

 イシュケルの表情に変化はない。けれどその声には喜びらしき感慨があった。

「ボクも……これでも、剣士のはしくれですから」

 パニも嬉しそうに答えた。

 この資質はきっと祖父(イシュケル)から受け継がれたものに違いない。

 二人は言葉も時間も超えて、確かに目には見えない繋がりを感じた。

「そうか」

 イシュケルの靴音は先程よりも軽快なリズムを奏で、再びパニの隣を歩き始めた。


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