◇水嶺のフィラメント◇
「レイン、お願い……どうか、良くなって……」

 全員の気配が感じられなくなったのを機に、アンは添い寝のようにレインの隣に横になった。

 左腕を首の後ろに回し、右手で波を胸元へ引き寄せる。

 小さな波紋はレインのシャツに寄せては返し、アンの掌で何重にも繰り返されて大きな波動へと変えられていった。

 何処からか射し込む光の筋が、レインのみぞおちを中心に照らす。

 波立つ度に輝く細かな粒子が、まるで星のように瞬く。

 気付けばそれは数えきれぬほどレインの身を散りばめて、やがて彼の中に吸い込まれるように消え去った。

 そうして時が十五分も経った頃──。

「ありがとう……アン」

 波を作るアンの手が、レインの手によって包まれた。

「だいじょうぶ……なの? レイン」

 レインとアンの微かなやり取り、そしてレインの頭頂部が頷くように振られたのに気付いて、一同も慌てて集まってくる。

「全快とはいかないけどね……お陰で話せる程度には……回復したよ」

 そう言いつつも、レインには起き上がろうとする気配はない。

 確かに言葉は外界に居た時よりもスムーズだが、アンにはレインが無理をしているように感じられた。


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