◇水嶺のフィラメント◇
「レイン、でも……」
「イシュケル、パニ」
レインはアンの懸念を遮って、二人の名前を呼んだ。
「パニ……君の父上は、アンの叔父上で、スウルムという。そして母上は、このイシュケルのご息女で、クレネという名だ」
「スウルム、クレネ……」
レインを挟んでアンの向かい側にしゃがみ込んだパニは、両親の名を噛み締めるように繰り返した。
「イシュケル……貴方のご息女は、スウルムさまと共に健在です。ネビアの言った生贄の話は、王家では通説となっていても、真実ではない……詳しくは、スウルムさまから聞いてください。僕が……クレネさまを、貴方の娘であると気付いてさえいれば……こんなことには……どうか、僕を許してください」
謝罪の言葉で一旦話を止めたレインは、一度瞳を伏せると大きく息を吐き出した。
「許すも何も……わたくしこそ、これまでの無礼を何卒お赦しください。レインさまがお気付きになられなかったのは、スウルムが語らなかったからでございましょう? それはレインさまにすら語れなかった、ということではありませんか? 彼は娘と共に身を隠す必要があった……それがレインさまの口から漏洩することを怖れていたからだと」
レインの体調が見た目よりも悪いと鑑みたイシュケルは、レインの語りたい言葉を推測して代弁し、レインの負担を和らげようとした。
理解したレインはただ首肯するだけに留めて、その思いやりに小さく笑みを洩らした。
「イシュケル、パニ」
レインはアンの懸念を遮って、二人の名前を呼んだ。
「パニ……君の父上は、アンの叔父上で、スウルムという。そして母上は、このイシュケルのご息女で、クレネという名だ」
「スウルム、クレネ……」
レインを挟んでアンの向かい側にしゃがみ込んだパニは、両親の名を噛み締めるように繰り返した。
「イシュケル……貴方のご息女は、スウルムさまと共に健在です。ネビアの言った生贄の話は、王家では通説となっていても、真実ではない……詳しくは、スウルムさまから聞いてください。僕が……クレネさまを、貴方の娘であると気付いてさえいれば……こんなことには……どうか、僕を許してください」
謝罪の言葉で一旦話を止めたレインは、一度瞳を伏せると大きく息を吐き出した。
「許すも何も……わたくしこそ、これまでの無礼を何卒お赦しください。レインさまがお気付きになられなかったのは、スウルムが語らなかったからでございましょう? それはレインさまにすら語れなかった、ということではありませんか? 彼は娘と共に身を隠す必要があった……それがレインさまの口から漏洩することを怖れていたからだと」
レインの体調が見た目よりも悪いと鑑みたイシュケルは、レインの語りたい言葉を推測して代弁し、レインの負担を和らげようとした。
理解したレインはただ首肯するだけに留めて、その思いやりに小さく笑みを洩らした。