◇水嶺のフィラメント◇
「……アンは思い到ったみたいだね。君のルーポワと、僕のフランベルジェへの来訪が重なったのは、きっと偶然じゃない。どちらも相手国から要求された期日を、こちらが受け入れて結実した日程だった。けれどどちらからの打診にも、おそらくリムナト政府からの圧力が加わっている」

 レインが国外に出払い、アンが国内を通過していた「あの一日」。

 その十数時間を作り出すことが、政府の狙いであったとしたのなら。彼らの計画は完璧に成功したことになる。

 そしてこの「タイミング」は、あの一日を(のが)せば永遠に訪れる筈のない一日だったのだ。

「僕たちは今回の外遊を最後に、婚礼の儀の準備に取り掛かる手筈だった。この事件はその妨害のために引き起こされたのだと思う……残念ながら政府内には、僕たちの結婚を良しとしない者が……少なくない、というのが現状なんだ」

「……」

 苦々しく言葉を継いだレインの推考は、三人の返答を押し黙らせた。

 同時にアンの中にある嫌な予感が、明確に確実に確固たる形を持って、彼女の心に重く()し掛かった。

 レインの父──リムナト前王が急死したのが今から約二年前。

 この国を中心とした周辺諸国は、同一の法の(もと)に統治されている。

 各国の(おさ)が逝去された場合、それから二年──つまり三回忌が行われるその日まで国民は喪に服し、新王が選ばれることはない。

 その二年がまもなく過ぎようとしていた。


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