◇水嶺のフィラメント◇
 やがて年功序列を優先とした世襲制に基づき、前王の弟ヒュードル侯が即位されるのであろう。

 そして戴冠(たいかん)式の後、レインとアンもささやかながら婚儀をおこない、晴れて伴侶となる予定だった。

 ──だからこそ。

 アンはこの騒動の収束のため、単身王宮に乗り込み嫌疑を晴らすことをためらったのだ。

 レインの居ない政府で反対勢力に囲まれてしまったら、取りつく島もないに違いない。

 その上「(こと)」を大きくするような失態を演じれば、レインとの結婚どころか、ナフィルの今後にも影響を及ぼしかねない。

 この「タイミング」だからこそ、せめてレインの帰国まで、アンはその身を隠して沈黙を貫くしか道がなかった。

「あの……お恥ずかしながら、レインさま。どうしてレインさまと姫さまのご結婚が、こちらの政府では反対されているのか理解しかねます。これまでわたくしめはリムナトの方々にも歓迎されていると思っていたのですが……」

 突如示されたこの国の実情に、フォルテと侍従二人は戸惑っていた。


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