◇水嶺のフィラメント◇
「神は民をも分かつように、各々が持つ『(いろ)』まで変えた。リムナト側の宮殿に住まう王族は金髪に青い瞳、ナフィル側に滞在していた残りの王族は黒髪に緑の瞳とね。リムナトとナフィルの境界に高い岩山が(そび)えてしまったため、ナフィルは湖の恩恵に預かれず、まもなく砂の大地と化した。リムナト側にはかろうじて湖の一部が残ったが、水量が激減して干上がるのは時間の問題と思われた……そこで王は神の怒りを鎮めようと、湖に王女を生贄(いけにえ)として捧げたが……神はとうに怒りなど治めていらしたのだよ。神は……生贄の王女に力を授けた。リムナトとナフィルを救う力を」

「え……?」

 神は既に人々を許していた──では何故これまで鉄格子は、リムナト(レイン)ナフィル(アン)(はば)んできたのか?

「力を手にした王女はリムナトの西、峰が削れて出来た深い谷に引き籠った。それが我々風の民の半数が住む「風の渓谷」だ。王女はこの時の被害で住む地を失った民を受け入れ、風の渓谷に小さな村を作った。その地で毎朝ナフィルの山から昇る朝陽に祈りを捧げ、毎夕渓谷の向こうに沈む夕陽へ願った。その信心に応えた神は、風の渓谷を通り抜ける西風に雨を降らせる力を注ぎ、リムナト側に残された湖に再び豊富な水を満たした。それをナフィルにも分け与えた、というのが……「風を継承する者」たちに代々伝えられている両国の起源譚だ」


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