◇水嶺のフィラメント◇
「風を継承する者?」

 誰からともなく発せられた疑問によって、スウルムの(みどり)の瞳が同じ色のアンの瞳へ向けられた。

「風の力を継承した者は、次代を受け継ぐ者を自身で選ぶのだよ……彼らは二つに分かたれてしまったリムナトとナフィルの王家からその者たちを選んできた。そうして「私たち」はアンシェルヌ、君を次代に選んだのだ……それから、レインをね」

「あたしと……レインを?」

 風を継承する者──選ばれしレインとアン──選んだのはスウルムと……クレネであろうか?

「「私たち」も同じように選ばれた。先代の「風を継承する者」たちによって。幼き頃、見知らぬ人物に連れられて、「私たち」はこの洞窟を訪れた。泉の水をグラスに注がれ、「私たち」はそれを飲み干した」

「泉の……水」

 アンは遠い過去を思い出した。

 アンもスウルムに連れられてこの地に(いざな)われ、すぐにグラスを渡されたのだ。この泉の水が注がれたグラスを。

「この泉には神の力が宿っている。それから神に力を与えられし、「風を継承する者」たちの祖国への想いも。だがその力は王家の血筋にのみ受け継がれるのだよ。泉の水を飲んだ王家の者だけが、この地への門を開くことが出来、この地へ赴いた折には時をも止める……」


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