◇水嶺のフィラメント◇
姉──アンの母を救うため──ネビアもそれがスウルムの悪事の発端であったと語ったが、弟であるスウルムは一体何を起こしてしまったのか──?
「姉は生まれつき身体が弱かった……だがリムナト側に妥当な子供が現れなかったこともあり、他に「風を継承する者」を選ぶ余地がなかったのだ。継承者の始まりが王女であったこともあり、選ばれるのは必ず女児と決まっている……男児が至れるのは飽くまでもその補佐としての立場までだ。病弱な姉を助けるため、私も彼女と共に何度もこの地を訪れた。やがて時が経ち、継承の日が近付いて、そんな或る日に出逢ったのです……リムナト王家の血筋を引く、貴方の娘……クレネと。私たちはすぐに惹かれ合い、やがてお互いの距離が近付いて、彼女が王家の遠縁であることを知りました。その時、姉の未来に希望を見出さずにいられなかったのは……正直否めません。継承前日の夕まで悩み続けましたが、とうとう彼女に真実を告白しました。クレネは姉の代わりに私と共に、風の渓谷で継承者として暮らすことを誓ってくれた……そうして私たちはその宵急いで旅立ったのです」
「だったら……生贄ではないではないか。ならばせめてわたしにだけでも、事情を話してくれていたら……」
イシュケルの戸惑う声に、スウルムは頭を垂れて悔しそうに唇を噛んだ。
「姉は生まれつき身体が弱かった……だがリムナト側に妥当な子供が現れなかったこともあり、他に「風を継承する者」を選ぶ余地がなかったのだ。継承者の始まりが王女であったこともあり、選ばれるのは必ず女児と決まっている……男児が至れるのは飽くまでもその補佐としての立場までだ。病弱な姉を助けるため、私も彼女と共に何度もこの地を訪れた。やがて時が経ち、継承の日が近付いて、そんな或る日に出逢ったのです……リムナト王家の血筋を引く、貴方の娘……クレネと。私たちはすぐに惹かれ合い、やがてお互いの距離が近付いて、彼女が王家の遠縁であることを知りました。その時、姉の未来に希望を見出さずにいられなかったのは……正直否めません。継承前日の夕まで悩み続けましたが、とうとう彼女に真実を告白しました。クレネは姉の代わりに私と共に、風の渓谷で継承者として暮らすことを誓ってくれた……そうして私たちはその宵急いで旅立ったのです」
「だったら……生贄ではないではないか。ならばせめてわたしにだけでも、事情を話してくれていたら……」
イシュケルの戸惑う声に、スウルムは頭を垂れて悔しそうに唇を噛んだ。