◇水嶺のフィラメント◇
「うん……フォルテの言う通り、「これまで」僕たちの婚約は両国民から祝福されてきた。でもリムナトの政府にとって、それはあくまでも「表向き」、前王()に対し敬意を表していると見せかけるための偽りだったんだ。三回忌が目の前まで迫って、ついに彼らも腹の内を見せてきたのだと思う。……僕の父が保守派であったのは知っているね? 父は侵略で国土を広げるのではなく、周囲の国々と平和的な交流を続けることで国家の安寧(あんねい)を築いてきた。だけどもうすぐ新王となる叔父ヒュードルの一派は、表面上保守派を装いながら、ここ最近急速に革新(リベラル)派の動きを見せている。僕が知ったのはフランベルジェに発つ当日だったのだけど……即位後は強硬な対外政策を決議させ、同盟国を支配下に置こうという方針らしい。となれば僕がナフィルの姫と懇意であることは、今後の体制に反する行為となる……それよりは遠方の大国にでも婿に行かせて、新たな後ろ盾を作らせたい……というのが、正直上層部の本音なんだ」

「そっ、んな……!」

 フォルテは叫んでしまった口元を、慌てて両手で押さえつけた。隣の侍従たちも相当な困惑ようだ。

 が、それも仕方あるまい。ナフィル国内にそのような噂は一度とて聞こえてこなかったのだから。

 ましてや当のリムナトに身を潜めていても、政府に対する愚痴はなきにしもあらず、具体的に対周辺諸国・対レインに関する方針転換など耳にすることすら皆無だった。


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