◇水嶺のフィラメント◇
 しかし彼の言葉がよりアンに確信をもたらしていた。

 父王が病床に倒れ、レインは一層アンに別れの選択をさせたくなかったに違いない。

 ましてや彼女以外ナフィルを支えられる人物がいなくなってしまった今、レインの決断は尚のこと強く固められていったに違いなかった。

 母が娘に望んだ渓谷での生活を、レインは与えてあげられない道を選んだ。

 その分母と同じ愛情をアンに与えてくれたのだった。

「だからこそレインはあたしに友を授けてくださったのでしょう。もちろんあたしにとってレインに代われる存在など有り得ませんが……レインは一生心の()り所となる「場所」を与えてくれました」

 スウルムの後ろでじっと唇を噛み締めるメティアに、アンは温かな視線を送った。

 その眼差しにスウルムは安堵の表情を浮かべる。

 それから深く息を吐き出し再び言葉を繋いだ。


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