◇水嶺のフィラメント◇
「彼は神の気持ちさえも変えさせたのかも知れないな……(いにしえ)、神は既に怒りを鎮めていたと話したが、分かれた二国を元に戻すことはなかった。それは神が人を憂いたからだ。リムナトはナフィルに水を分け与えても、自国より繁栄させぬよう手段を講じてきた。必要最低限の水量しか与えなかった人の(いや)しさに、神はいつしか失望した。レインはきっと神に進言したのだろう。リムナトとナフィルが共に思いやり、共に発展していく未来を約束すると」

「ええ……きっと」

 そしてその意思を理解し、その意志を継ぐことの出来る『王女』アンを、レインは国に残したかったに違いなかった。

 今一度泉を振り返り、アンは光の漂う波間にレインの幻を見た気がした。

 レインはもう二度と誰も離れ離れになどさせたくなかったのだろう。

 イシュケルと娘クレネ、スウルムとクレネと息子パニ、そしてアンと父王を……

 ──でもその中に、貴方もいてくれる未来が一番良かった……。

 微笑みながら涙が溢れる。

 アンは零れないように一度強く目を閉じて、スウルムの言葉に顔を戻した。


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