◇水嶺のフィラメント◇
「叔父さま、あたしに「時間」を戴けないでしょうか?」

 アンは立ち上がって、見上げるスウルムに問い掛けた。

 その真摯な趣に、スウルムもまた表情を引き締めて腰を上げたのは、アンの考えに気付いたからかも知れない。

「もちろん構わないよ。ゆっくり会って(、、、)くるといい。私たちはナフィル側の出口付近で待とう。君がこの空間から出てこない限り、私以外は動けなくなってしまうからね」

「ありがとうございます、叔父さま。叔父さまもどうぞ、パニたちと良い時間をお過ごしください」

 二人のやり取りを聞いた一同は、誰からともなく立ち上がった。

 しばしの別れにアンはまず、落ち込んだ様子で佇むメティアに歩み寄る。

 高いヒールを脱いだメティアは、アンとそう変わらぬ身長だった。

 アンはその視線が辿り着く前に、メティアをひっしと抱き締めた。

「ありがとう、メティア」

 触れた頬が小刻みな震えを感じ取る。

「……ちっとも……ありがとう、じゃない……レインを……助けられなかった……!」

 そこまでどうにか言葉を紡いだが、メティアはアンの胸の中で(せき)を切ったように泣き出してしまった。


< 206 / 217 >

この作品をシェア

pagetop