◇水嶺のフィラメント◇
 アンはパニの背中に腕を回して軽く抱擁を交わし、近くで見守るスウルムに質問した。

「叔父さま、パニの名前にはどのような意味があるのですか?」

 スウルムは背後のイシュケルに一度目を向けて、照れ臭そうにアンに答えた。

「君と同じく母親が名付けた。パニは此処から東南にある国の言葉で……『水』を意味する」

「……きっとクレネさまが故郷を想って名付けたのね」

「『水』……母さんが付けてくれたんだ……」

 パニは感慨深くスウルムへ、そしてイシュケルに笑む。

「パニ、メティアたちと一緒に旅を続けても、今後は時々立ち寄ってお母さまに甘えるといいわ。レインもそれを望んだの。そして……いつかふるさとの力になりたいと思ったら……どうか戻ってきてちょうだい。リムナトでもナフィルでも、王家は貴方を歓迎致します。貴方とレインに恥じない王家となるよう、それまであたしが責任を持って務めます」

「アンさま……それって」

 アンはパニの途切れた言葉の先には答えなかったが、その微笑みが物語っていた。

 世界を旅して見聞を広め、両親の愛を理解した将来のパニは、きっと両国の王にふさわしい。

 パニの(はしばみ)色の髪と緑青(ろくしょう)の瞳は、きっと二国の融合した(あかし)だ。

 母であるクレネの髪はおそらくレインと同じ金色で、瞳も同じく碧いのだろう。

 アンと同じ黒髪と翠眼を持つスウルムの血と交わって、パニという『(いろ)』が生み出された。


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