◇水嶺のフィラメント◇
「どうして今まで、どなたも何も仰ってくださらなかったのです!?」

「……すまない、フォルテ。四日前から箝口(かんこう)令が敷かれたらしくてね。もちろん国民の殆どは知らないのだけど、新政権発足後の方策について、誰も口外出来ないことになっているんだ。当然対象国の一つであるナフィルに洩らしたとなれば、死を意味するほどの厳罰に処されてしまう。皆、君たちに言いたくとも言えない状況にある」

 レインの憂いを湛えた瞳は、フォルテの炎を掻き消した。その焦点は申し訳なさそうに俯いて、彼女に二の句を継がせなかった。

 しばしフォルテは放心したが、アンの許へ戻りゆくレインの視線の先をふと見上げる。

「あっ……あの、姫さま……もしや姫さまはそのことにお気付きであったのですか……!?」

 穏やかな表情で見詰め合うレインとアンの横顔に、フォルテはハッと声を上げた。

 最も衝撃を受けている筈の王女の(おもて)に、絶望の(かげ)りなど一切浮かんでいなかったからだ。

「ごめんね、フォルテ……具体的には何も聞いていないし、知りもしなかったけれど……三回忌の儀を待たずに、レインがあたしとの婚約を押し進めた時から、何かしら問題の起こりそうな予感はあったの。でも貴女に話したら、きっと心配させてしまうと思って」


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