◇水嶺のフィラメント◇
「このフォルテに隠しごとなど、通せるとでもお思いでございますか!? さぁさ姫さま、お顔をお見せくださいませ。わたくしめがその水晶の如きお涙を拭って差し上げます」
「クリスタルだなんて……」
フォルテの譬えは昔から大仰だ。
苦々しく笑っていると、涙の伝った頬が柔らかい布地で包まれた。
「フォルテ、あたしを甘やかし過ぎよ」
含み笑いで咎めながらも、せっせと働く手に身を委ねる。
フォルテの母親は姫の乳母であった。
物心つく頃には、既にフォルテも見よう見まねで彼女の世話を手伝っていた。
それから約二十年、心配性は玉に瑕だが、今でもかけがえのない第一等侍女である。
「もう……何度目の朝になるのかしら? フォルテ」
寝台から立ち上がり、一筋の光を注ぐ小さな窓に目を向ける。
画鋲で留められた厚手の布地は、いかにも急ごしらえといった様相だ。
「……三度目、でございます。姫さま……」
「……」
窓辺に寄せる歩みが、その答えと共に止まった。
まるで「近付いてはなりませぬ」と諌められた気がしたからだ。
「少しでも『中』の気配を悟られてしまえば、命の保証はございませぬよ」──そう諭されたかのように。
「クリスタルだなんて……」
フォルテの譬えは昔から大仰だ。
苦々しく笑っていると、涙の伝った頬が柔らかい布地で包まれた。
「フォルテ、あたしを甘やかし過ぎよ」
含み笑いで咎めながらも、せっせと働く手に身を委ねる。
フォルテの母親は姫の乳母であった。
物心つく頃には、既にフォルテも見よう見まねで彼女の世話を手伝っていた。
それから約二十年、心配性は玉に瑕だが、今でもかけがえのない第一等侍女である。
「もう……何度目の朝になるのかしら? フォルテ」
寝台から立ち上がり、一筋の光を注ぐ小さな窓に目を向ける。
画鋲で留められた厚手の布地は、いかにも急ごしらえといった様相だ。
「……三度目、でございます。姫さま……」
「……」
窓辺に寄せる歩みが、その答えと共に止まった。
まるで「近付いてはなりませぬ」と諌められた気がしたからだ。
「少しでも『中』の気配を悟られてしまえば、命の保証はございませぬよ」──そう諭されたかのように。