◇水嶺のフィラメント◇
イシュケルとは、父王の即位と同時に召し抱えられた古参の兵士だ。昔から生真面目で口数は少ないが、王家に対する忠実な姿勢から人望は非常に厚い。
隊長に任命されたのはアンが生まれた時分であったというから、異例のスピード出世であろう。それから二十年、その信念は変わることなくナフィルに人生を捧げてきた。
「確かにイシュケルでしたら……でも見届け人とは?」
これまでの彼の功績を振り返りながら、アンは二つ目の疑問を口にした。
「僕を含めた保守派のメンバーは、これから叔父たちリベラル派と対峙しなくちゃいけない。だけど事はリムナトに留まらず、国境を重ねる三国にも関わることだからね。もちろんルーポワとフランベルジェからも見届け人を募る予定だよ。君なら「自分が」って申し出るところだろうけど、残念ながら君は、その……僕にとっては「アキレス腱」でもある訳だから。悔しいとは思うけれど、今は自国へ戻って辛抱してほしい」
「は、はい……」
アキレス腱という譬えに彼の抱く決意の強さを、言い淀んだ一瞬に贖罪の深さを感じた。
隊長に任命されたのはアンが生まれた時分であったというから、異例のスピード出世であろう。それから二十年、その信念は変わることなくナフィルに人生を捧げてきた。
「確かにイシュケルでしたら……でも見届け人とは?」
これまでの彼の功績を振り返りながら、アンは二つ目の疑問を口にした。
「僕を含めた保守派のメンバーは、これから叔父たちリベラル派と対峙しなくちゃいけない。だけど事はリムナトに留まらず、国境を重ねる三国にも関わることだからね。もちろんルーポワとフランベルジェからも見届け人を募る予定だよ。君なら「自分が」って申し出るところだろうけど、残念ながら君は、その……僕にとっては「アキレス腱」でもある訳だから。悔しいとは思うけれど、今は自国へ戻って辛抱してほしい」
「は、はい……」
アキレス腱という譬えに彼の抱く決意の強さを、言い淀んだ一瞬に贖罪の深さを感じた。