◇水嶺のフィラメント◇
「アン……それからもう一つ、必ず届けるから待っていて」
「はい……?」
思い詰める度に落ちてゆく目線が、レインの続けられた言葉に持ち上げられる。視界を埋め尽くしたのは常に変わらない朗らかな微笑み。
そう、この笑顔が隣にあったからこそ、自分はどんな悲しみも苦しみも乗り越えてこられた。
今はこの輝きに身を委ねろと、天から言われているのだと思いたかった。いや、この光明がある限り、きっと道は開ける筈だ。
そう思わせてくれる何かが、レインの唇から流れる言葉にはあった。
その唇がアンの耳元に近付いてくる。内緒話をするように掌を添えて、吐息の掛かる至近で明かされた。
「忘れたのかい? ──正式な……婚姻契約書……だよ!」
付け加えられた「お届け物」と眩しいくらいのウィンクは、アンの胸に渦巻く不安を一掃した。もちろん……侍従二人を蚊帳の外に置き去りにして。
◆ ◆ ◆
「はい……?」
思い詰める度に落ちてゆく目線が、レインの続けられた言葉に持ち上げられる。視界を埋め尽くしたのは常に変わらない朗らかな微笑み。
そう、この笑顔が隣にあったからこそ、自分はどんな悲しみも苦しみも乗り越えてこられた。
今はこの輝きに身を委ねろと、天から言われているのだと思いたかった。いや、この光明がある限り、きっと道は開ける筈だ。
そう思わせてくれる何かが、レインの唇から流れる言葉にはあった。
その唇がアンの耳元に近付いてくる。内緒話をするように掌を添えて、吐息の掛かる至近で明かされた。
「忘れたのかい? ──正式な……婚姻契約書……だよ!」
付け加えられた「お届け物」と眩しいくらいのウィンクは、アンの胸に渦巻く不安を一掃した。もちろん……侍従二人を蚊帳の外に置き去りにして。
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