◇水嶺のフィラメント◇
「王女さまのお衣装ですから、旅支度としてももっと装飾で覆い尽くされているのかと思っていました。こちらでしたら身軽に歩けますね。万が一リムナト兵に追いつかれても余裕で闘えます」

 その頃。真下の二階、店主の寝室ではパニの支度が整いつつあった。(いっ)(こく)(おさ)代理でありながら、色合いも形状も決して王族らしいとは言えない質素な装いだ。

 店主に用意してもらった姿見に身を映して、パニは快適そうに腕や肩を回してみせた。

「姫さまは余り華美を好まないの。もう少し豪奢(ごうしゃ)なお召し物でも良いと思うのだけど」

 フォルテは微かにボヤきながら大袈裟に溜息をついた。

 その吐き出された空気の源は、お洒落を楽しまない主人に対する諦めなのか? 万が一にも敵兵に追いつかれては困るという先への不安なのか? ──どちらなのかは分からぬところだが。

「パニったら、本当に背丈はピッタリね! でもやっぱりまだまだ子供だわ~胸元がブカブカ、その内その辺りも成長するかしら?」

 フォルテはダラリと下がってしまった前身頃を持ち上げて、それらしい膨らみを作って笑う。

「いえ、それは困ります」

「え?」

 不思議な返事が気になって、フォルテはパニの顔を見上げた。まるで先程のレインのような朗らかな笑顔に、彼女はゆっくり小首を(かし)げてみせる。

「だって……「ボク」、男の子ですから」

「──ボ……クっ!?」





◆衣装はパニ自身のイラストですが・・・


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