◇水嶺のフィラメント◇
独りに戻った小さな部屋で、しばらくは微動だにせず彼の残像を目に焼きつけていた。
それも数分ののちには我に返った。フォルテの階段を上る足音が聞こえてきたからだ。
きっとレインが出ていったのを知って、様子を見にやって来たのだろう。
アンは慌てて寝台に腰を下ろし、何事もなかったような表情を取り繕った。
「姫さま、朝食をお持ちしました」
トレイに山盛りのパンと温かな飲み物を抱え、フォルテは優しい笑顔で参上した。
アンが淋しさに取り巻かれてしまった時には、必ず其処から掬い上げてくれる癒しの存在だ。
昔から政で傍にいられなかった父王に代わり、レイン、そしてフォルテの母とフォルテがアンを守ってきてくれた。
「ありがとう、フォルテ。一緒に戴きましょ」
小さなテーブルに乗せられた十分な食事を見下ろして、フォルテに同席の誘いを掛ける。
と共に今更気が付いた。レインにも焼き立てパンを味わわせてあげたかったものだと。
「わたくしめは後ほど戴きますので、どうかご心配なさりませぬよう。それから、レインさまにも沢山のパンをお持ち帰りいただきました」
「相変わらず至れり尽くせりね、フォルテ」
アンは驚きと尊敬の眼差しで、フォルテを一瞥し苦笑した。
けれど用意された椅子には着かず、テーブルを挟んだ向こう側にフォルテのための一脚を寄せる。
それも数分ののちには我に返った。フォルテの階段を上る足音が聞こえてきたからだ。
きっとレインが出ていったのを知って、様子を見にやって来たのだろう。
アンは慌てて寝台に腰を下ろし、何事もなかったような表情を取り繕った。
「姫さま、朝食をお持ちしました」
トレイに山盛りのパンと温かな飲み物を抱え、フォルテは優しい笑顔で参上した。
アンが淋しさに取り巻かれてしまった時には、必ず其処から掬い上げてくれる癒しの存在だ。
昔から政で傍にいられなかった父王に代わり、レイン、そしてフォルテの母とフォルテがアンを守ってきてくれた。
「ありがとう、フォルテ。一緒に戴きましょ」
小さなテーブルに乗せられた十分な食事を見下ろして、フォルテに同席の誘いを掛ける。
と共に今更気が付いた。レインにも焼き立てパンを味わわせてあげたかったものだと。
「わたくしめは後ほど戴きますので、どうかご心配なさりませぬよう。それから、レインさまにも沢山のパンをお持ち帰りいただきました」
「相変わらず至れり尽くせりね、フォルテ」
アンは驚きと尊敬の眼差しで、フォルテを一瞥し苦笑した。
けれど用意された椅子には着かず、テーブルを挟んだ向こう側にフォルテのための一脚を寄せる。