◇水嶺のフィラメント◇
それからしばらくは現実を忘れ、アンとフォルテは遅い朝食を楽しんだ。
一休憩して店主が借りてきた外套を試着してみたが、その中身はまだアン自身の身支度のままだ。
パニによればのちに合流予定の副首長が、アンのための衣装を持ち込んでくれるとの話であった。
「──そこまでしていただかなくとも、あたしがパニの衣装を纏えば良いのではないかしら?」
ひとまず自分の支度に戻ったパニを見詰めて、アンは質問を投げ掛けた。
少々胸元は苦しいかも知れないが、山を越えるには身軽そうなシンプルな出で立ちだ。
「いいえ、アンさま。わたくしの古びた衣服など、王女さまにお召しいただく訳にはまいりません。それにこの装いは風の民の物。遠目には分かりませんが、見る者によっては気付かれますゆえ。フランベルジェを経由してお帰りになられるのですから、フランベルジェの服装が宜しいかと思います」
「そうねぇ……」
確かに日頃余り見かけることのない風の民だと誤解を受ければ、どうしても目を引いてしまう。
パニの言い分には一理あり、ともすれば、まず先決は副首長の到着を待つしかないということだ。
一休憩して店主が借りてきた外套を試着してみたが、その中身はまだアン自身の身支度のままだ。
パニによればのちに合流予定の副首長が、アンのための衣装を持ち込んでくれるとの話であった。
「──そこまでしていただかなくとも、あたしがパニの衣装を纏えば良いのではないかしら?」
ひとまず自分の支度に戻ったパニを見詰めて、アンは質問を投げ掛けた。
少々胸元は苦しいかも知れないが、山を越えるには身軽そうなシンプルな出で立ちだ。
「いいえ、アンさま。わたくしの古びた衣服など、王女さまにお召しいただく訳にはまいりません。それにこの装いは風の民の物。遠目には分かりませんが、見る者によっては気付かれますゆえ。フランベルジェを経由してお帰りになられるのですから、フランベルジェの服装が宜しいかと思います」
「そうねぇ……」
確かに日頃余り見かけることのない風の民だと誤解を受ければ、どうしても目を引いてしまう。
パニの言い分には一理あり、ともすれば、まず先決は副首長の到着を待つしかないということだ。