◇水嶺のフィラメント◇
「副首長さんにまでお手を(わずら)わせてしまって、本当に申し訳ないわ。何かお礼をさせていただかなくては。そう言えば……パニは首長さんの御子だとレインは言ったけれど、今回協力いただいていることはもちろん首長さんのご意向なのね?」

「さぁ……」

「え?」

 アンの問いにパニは仄かに口元を歪めて、一言息を吐くように呟いた。

 が、それも刹那、アンとフォルテの疑問の声に慌てて(おもて)を上げる。パニはすぐさま低頭し陳謝した。

「も、申し訳ありません! 実は……生まれてすぐ「旅」側に引き取られましたので、「山」に住む両親とは会ったことがないのです」

 聞けば風の民には流浪する「旅」側と、隔離された山間部で暮らす「山」側という二つのグループがあり、「山」で生まれた者はまもなく「旅」に預けられ、「山」に属する年齢になるまでは両親に会うことも叶わないのだという。

「そのようなことが……知らなかったとはいえ、不躾(ぶしつけ)にごめんなさいね」

「い、いえ」

 一般的に世間では「旅」側の風の民しか知られていない。

 アンは遠慮がちに「山」について尋ねてみたが、その場所を知る者は「旅」側のリーダーである副首長(サブ・リーダー)のみだということだった。


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