◇水嶺のフィラメント◇
 アンは心配そうに立ち上がり、フォルテが守るようにその前を陣取る。

 しかしパニだけは笑顔を失わなかった。同じ風を感じたからだ。店主と共に現れたのは副首長だと察せられた。

「あんた、本当にレインさまのお使いなのかい? そんな格好で……おいおい勝手に上がらんでくれ! ナフィルの姫さまがこんな所にいらっしゃる訳もないだろう!?」

「やっぱりメーだ!!」

 足止めしようと試みる店主の声を聞き、パニは嬉しそうに戸口へ駆け寄った。

 開かれた空間から、店主の焦燥と二人分の足音が直接耳に反響(こだま)する。

「メー! 待ってたよ!!」

 パニは待ちきれないように、階下へ向かってその名を呼んだ。

「ほ~ら、聞いたか? れっきとしたお使いだろ!? いや、ホントはお使いなんかじゃないんだって。お姫サマが聞いたら驚くだろうねぇ~あたいがレインの愛人だって知ったらさ!!」

 ──……え?

「あ、あ、あ……あい……!?」

 アンの目の前、泡を吹いたフォルテが卒倒した──!


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