◇水嶺のフィラメント◇
 それぞれの台詞が一周し終えたが、二周目はアンの番で止められることとなった。

 メティアの妨害と格闘している間に、まだ膨らみのある布鞄をメティアの背後に見つけたからだ。

「ひどいわ、メティア。あたしをからかったのね?」

「ん?」

 登場したてのメティアのように腕を組んで──案の定バストが強調される結果となったが──アンは眼下のメティアに憤慨してみせた。

 その視線を追って、メティアも布鞄の存在を思い出したようだ。

「あちゃ、バレたか」

「本物はそちらなのでしょ? どうしてこのような衣装を着させたの? ……早く支度するように急かしたのはメティアなのに」

「だって~」

 相変わらずしれっとした調子で両腕を後頭部に回したが、上目遣いにアンを捉えたメティアの表情は、今までで一番柔らかく女性的だった。

「だってさぁ……レインの恋人があたいより優れていなかったら悔しいじゃないか」

「え?」

 まどろみの眼差しに、アンは驚きの面差しを返した。

 メティアの言い分を聞かされても、この衣装を着用させた理由がアンには理解出来なかったからだ。


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