◇水嶺のフィラメント◇
今朝も店主は約束を交わした場所へ、兵たちからの報告書を受け取りに出掛けてくれていた。
しかし一時間を過ぎても誰一人現れず、諦めて戻ってきたのだった。
レインが真夜中の脱出計画を指示したことで、今夜の再会までは身を隠すことを優先したのだと、アンたちは前向きに結論づけてしまったが、ニセモノであったならそろそろ正体がバレると見込んで、二度目の接触は避けたのかも知れない。
どちらにせよ、その者たちは明らかに、アンの一行がパン屋の屋根裏部屋に身を隠していることを知っていたということになる。
なのに彼らが今でも踏み込んでこないのはどうしてなのか?
アンがレインに対しての「人質」となるならば、レインが彼らに見つけられた時点で、レインもアンも連行されている方が自然な筈だ。
「それでその、地下牢から救出してくださったのがレインさまだそうで……まだ数時間前のことですから、おそらくレインさまが王女さまにお会いになられた後のことだと思われます」
「レインが……?」
──もしかしてレインがあれから早々に王宮へ戻ったのは、兵たちを助けるためだった……?
脳内に巡らせていた手掛かりの断片が、一つずつ少しずつ、結ばれては形を成してゆく。
その途中でアンはハッと息を呑んだ。
声に出してしまいそうな驚きに、慌てて唇を掌で塞いだ。
しかし一時間を過ぎても誰一人現れず、諦めて戻ってきたのだった。
レインが真夜中の脱出計画を指示したことで、今夜の再会までは身を隠すことを優先したのだと、アンたちは前向きに結論づけてしまったが、ニセモノであったならそろそろ正体がバレると見込んで、二度目の接触は避けたのかも知れない。
どちらにせよ、その者たちは明らかに、アンの一行がパン屋の屋根裏部屋に身を隠していることを知っていたということになる。
なのに彼らが今でも踏み込んでこないのはどうしてなのか?
アンがレインに対しての「人質」となるならば、レインが彼らに見つけられた時点で、レインもアンも連行されている方が自然な筈だ。
「それでその、地下牢から救出してくださったのがレインさまだそうで……まだ数時間前のことですから、おそらくレインさまが王女さまにお会いになられた後のことだと思われます」
「レインが……?」
──もしかしてレインがあれから早々に王宮へ戻ったのは、兵たちを助けるためだった……?
脳内に巡らせていた手掛かりの断片が、一つずつ少しずつ、結ばれては形を成してゆく。
その途中でアンはハッと息を呑んだ。
声に出してしまいそうな驚きに、慌てて唇を掌で塞いだ。