◇水嶺のフィラメント◇
「え!?」

 メティアの問い掛けにも答えている暇はないらしい。

 アンは見つけ出した探し物の二通の中身と、上着のポケットに収めておいた一枚の紙片を取り出して、計三枚を床に並べてみせた。

 探し物の二通とは、一昨日の朝と昨朝に店主が兵たちから預かった報告書である。

 そしてもう一枚は、レインが空き家までの道のりを書き込んだ便箋であった。

 前者はリムナト政府の陰謀に対する重要な証拠として、後者は自力で空き家を目指すために、アンに託されたものである。

「メティア、マッチを持っていないかしら?」

「あ、ああ……ちょっと待って」

 今度はメティアが(ふところ)をゴソゴソと探って、小さなマッチ箱を取り出した。

「ありがとう。どれも色や柄が違うから気付かなかったわ……でも、レインはこれに気付いた」

「え?」

 手早く三枚の端をちぎり、アンはマッチを()った。

 途端その火を中心にした光が、二人の頬をオレンジ色に(とも)す。

 アンはまず一昨日の報告書の断片を燃やし、次に昨朝の断片を、最後に地図の切れ端を燃やして、「やっぱりね」と呟いた。


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