◇水嶺のフィラメント◇
「その人に連れられて、あたしは宮殿の西の端、もう使われていない古い階段を降りて、深い深い地下室へ行ったの。その人が西側の石壁に触れた途端、壁面が生き物みたいにクルリと回転して、その先には長い地下道が続いていた。くぐり抜けると今度は洞窟が広がっていて、本当に驚いたものだったわ」

 アンは懐かしそうに語ったが、まだ三歳と少しばかりの記憶なのだ。

 そんな遥か遠い昔でありながら今でも鮮明な詳細と、あわや誘拐事件ともなりそうな驚愕の事実に、メティアはついぞ声もなく眼を見開いてしまった。

 城の西部に隠された不思議な空間は、岩に囲われていながらほんのり明るかった。

 右手半分は澄んだ水を湛えていて、左半分には真っ白で細かな砂が敷き詰められている。

 しかし見通せる奥までのちょうど中間に、まるで牢獄のような鉄格子が天井まで貫かれていた。

 それは端から端までずっと巡らされていて、見れば水の底までも深く刺し込まれているようだった。


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