◇水嶺のフィラメント◇
『アンシェルヌ、喉が渇いたのだろう? この泉の水は美味しいよ』

 そうして影は岸辺に寄り、胸元から取り出した綺麗なグラスに水を(すく)い入れた。

 繊細なカッティングの美しさと、甘みすら感じるほどの透明な液体に、アンはどれほど感動したか知れない。

 もう一度飲みたいと思って岸に駆けてゆき、おかわりを飲み干して笑顔で振り返った時、けれどその影はあたかも闇に溶けてしまったかのようにすっかり消え去っていた。

「突然独りにされてしまったあたしは、怖くてもう動くことすら出来なかった……グラスを握り締めたまま、濡れてしまうことも構わずにしゃがんで泣き出してしまったの。しばらく大声で泣いていたのだと思うわ。そうしたら洞窟に反響するあたしの声を聞いて、格子のずっと向こうから応えてくれる声がした」

「もしかして、それが?」

 静かに聞き入っていたメティアの瞳が再び見開かれ、

「そう……その人の言った「お友達」……それが、レイン、だった」

「……わぉ」

 益々大きな(まなこ)となった。


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