◇水嶺のフィラメント◇
 快諾したアンには続けて訊きたいことがあったが、何も伝えられずにモジモジとしてしまう。

 それでもレインは自分なりに()(はか)って、それを自分からの質問に変えてくれた。

『アンのお昼寝の時間は何時?』

『え?』

 唐突な問い掛けに驚いてしまったが、

『……い、いちじ』

 ランチを食べたら、おネムのお時間だ。

『それじゃあ明日お昼寝の時間、もし眠くなかったらガンバってまたココに来て。侍女が一緒に来たいと言ったら連れてきてもいいよ。だけど必ず一人だけね。一番仲のいい侍女の名前は何ていうの?』

『んっとね、フォルテだよ!』

 実際この時のフォルテはまだ侍女見習いであったが、此処に連れてきたいと思える人物は、フォルテ以外の誰でもなかった。

『じゃあね、アン。フォルテと一緒にまた明日!』

『うん! レイン、あちたね!! えと……あり、がと……』

 恥じらいながら俯いて、小声でお礼を呟くアン。光に導かれて地下道へ辿り着くまでの間に、何度も何度も後ろを振り返った。

その先には──片手にはグラスを、もう片方の手は名残惜しそうに振り続けるレインがずっと立っていた──。


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