【短編】赤い瞳に囚われて
 状況だけでも恥ずかしいのに、もっと恥ずかしいことを言ってくる。

 しかも言葉だけじゃなく実際に顔が近づいてきて本気で慌てた。


「ちょっ! 待ってください! 流石にそれは……」

 いくら何でも人前でキスは無理だった。

「いいだろう? お前の精気をもっと味わいたい」


 魔族の人は人間と触れ合うことで精気……簡単に言うと人が元気でいるための力を食べるんだそうだ。

 精気を奪われると人間はちょっと疲労感を覚えるみたいだけれど、せいぜいが一時間ほど運動した後くらいのものらしい。


 手をつなぐとかだけでも食べられるらしいけれど、キスとか……それ以上のこととかの方がもっと効率よく食べられるんだって。

 だからキスと言ってもある意味リヒトにとっては食事とも言える。

 ……言える、けど。


「でも、恥ずかしい……です」

 消え入りそうな声で訴える。

 リヒトにとっては食事でも、わたしにとっては濃厚なキスだ。

 人前でなんて絶対に無理だった。


「ふっ……可愛いな、夢莉は。……そんな可愛いおねだりをされたら聞かないわけにはいかないじゃないか」

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