僕のミア
「ご馳走様」
ミアを待たせては悪いとばかりに早々に食事を済ませると、部屋の隅に縮こまっているミアの側に近寄りその頭を優しく撫でてやる。
「お待たせ、ミア。お風呂に入ろうか」
ミアの首に付けられた首輪を外すと、その身体を抱えてお風呂場へと移動する。これから起こることが分かったのか、急に暴れ始めたミア。危うく落としそうになり、慌てて抱え直す。
「コラッ! 大人しくしないとダメだろ、ミア!」
(どうやら、今夜も躾で遅くなりそうだ)
そんな予感を感じながらも、愛おしくて堪らないミアを抱きしめてニッコリと微笑む。
今にも逃げ出してしまいそうなミアをどうにかお風呂へと入れると、暴れるミアを抑えてその身体を丁寧に洗ってゆく。
この時間が、実はお世話の中で一番大変だったりする。隙あらば脱走しようとするミアと、それを阻止しようとする僕との攻防戦が繰り広げられるのだ。
「っ、……コラッ! 暴れるな!」
そんな事を言いながらも、この攻防戦が楽しかったりもする。小さな身体では当然僕の力に敵うはずもなく、項垂れたミアは観念したかのように大人しくなった。
敵うはずもないと分かっているくせに、毎度のように脱走してみせようとするミア。そんなミアが可愛くて、クスリと声を漏らした僕は鼻歌混じりにミアの身体にお湯をかけた。
「よし、終わり。頑張ったね、ミア」
グッタリとしたミアを抱え上げると、濡れた身体を優しくタオルで拭いてあげる。それだけでは乾ききらなかった毛を乾かすために、予め用意してあったドライヤーを手に取ると丁寧にミアの毛を乾かしてゆく。
ペットのお世話をするのは本当に大変だけれど、その分愛しさも溢れてくる。僕は、そう感じるこの瞬間が大好きなのだ。
「もう、24時過ぎてる……」
カチリとドライヤーの電源を切ると、視界に入ってきた時計を眺めてポツリと呟く。
どうやら僕の予想は当たっていたようで、今夜もミアのお世話で気付けば24時を回ってしまった。
「もう寝ようね、ミア」
細っそりとしたミアの首に首輪を取り付けると、優しく微笑みながらそう語りかける。
「…………ミア?」
何の反応も示さずに、グッタリとしている僕のミア。
「あれ……?」
ミアの顔に右手をかざして確認してみると、呼吸をしている気配を感じられない。どうやら、今回のミアも壊れてしまったようだ。
「ペットのお世話は、本当に大変だな……」
首輪に繋がれた鎖をジャラリと響かせると、僕はグッタリと横たわるミアを抱き起こした。
「おやすみ、ミア」
ミアだった”それ”の髪を丁寧にかき分けると、虚な瞳のまま命尽きたミアの唇にそっとキスを落とす。
明日からまた、新しいミアを用意しなければならない苦労を考えると残念でならないけれど、こうなってしまったら仕方がない。ペットのお世話とは、それだけ大変なのだ。
だけど、それ以上の幸せを僕に与えてくれる。
僕の毎日を愛しい時間で満たす為に、明日からまた、新しいミアを探しに行こう。
愛しい愛しい、僕だけのミアを──。